閑話休題 その9
右利き左利き 石原 利矩
世の中、右利きと左利きの人がいる。多くの道具は右利き用のものが優先している。しかし、特注すればはさみでも包丁でもそれ相応のものが用意されている。 しかし、楽器になるとそうはいかない。フルートは現在は右構えに楽器を持ち歌口を唇に当てる。楽器がそう作られているのだから有無を言わせない。ルネッサンス時代の絵画には左吹きの絵が沢山ある。当時は楽器にキーがなかったからどちらに構えても音が出たのだ。それがいつの間にやら右吹きになってしまった。その理由も良くは解っていない。どうしてピアノの右手が高音域で左手が低音域なのかがよく分からないと同じように。 広告などでモデルさんがフルートを吹いているのをときどき見かける。よく見るとおかしなキーを押さえていたり、変な姿勢だったり、時には逆に構えていたりするものもある。 以前、福岡の市内のあるビルの入り口にウイーンフィルの演奏会の写真が大きくレイアウトされていた。そこには私の恩師がフルートを吹いている写真が使われていた。それは随分昔の写真だった。懐かしさのあまり立ち止まった。でも、なんかおかしい。よくよく見ると写真の左右が反対になっているのである。思わず笑ってしまった。大通りに面しているビルである。人々の目にさらされているにも関わらずその絵はその後もずっとそうなっていた。これも人の意表を突くデザイナーのアイデアかなと思ったが単にネガを反対に焼き付けてしまったようだ。 ピサの斜塔が右に傾いていても左に傾いていてもおかしくはない。しかし、世の中には一般の人には気がつかれないが専門家にはおかしく思われるものがまかり通っているのではないかと想像する。 |