閑話休題 その5
不思議に思うこと 石原 利矩
これは笛吹きたち37号(2008.5.17発刊)に掲載した文章です。
一世代を何年とするかは時代、風習によって変わりますが、それぞれが平均して二十五才頃の誕生と考えると十世代は二百五十年前となります。およそ江戸時代の中期、徳川吉宗第八将軍が千七百五十一年(没)の時代、ヨハン・セバスチャン・バッハが千七百五十年に没したバロック時代の終焉の頃です。 倍々計算をすると二十世代では驚くことに二百九万七千百十五人となります。その伝で紀元〇年までさかのぼれば約八十世代が経ていることになります。二の八十乗です。二十四桁となります。皆さん、二十四桁を言葉で言い表せますか?億、兆、京(けい)、垓(がい)の世界です。これはもはや天文学的数字となります。しかも、人間はその時から始まったわけではありません。さかのぼればさかのぼるほど数は増えます。 しかし、ここで歴史を振り返ってみると昔の人口は今よりずっと少なかったのです。紀元前二千五百年では一億人、紀元〇年では二億人、紀元千年で三億人、千六百五十年で五億人、千八百年で十億人、千九百年で二十億人、千九百六十年で三十億人、千九百七十四年で四十億人、千九百八十七年で五十億人、千九百九十九年で六十億人、現時点では六十六億七千二百五十五万人という数字があります(国連統計のデータ)。 先ほどの計算によると、我々をこの世に生み出した人の数は現在の地球上の人口より遙かに多いことになります。勿論、天文学的数字の中には重複(一人の人から次世代に複数の糸で繋がれている場合)もあり得ますが、全体からみればその数はほんのわずかなことでしょう。 進化論が容認されている現代において人類がアダムとイヴの二人から生まれたと考えている人は一体どのくらいいるのか分かりませんが、人類はいわばピラミッドの形で増えてきました。いや、ピラミッドと言うよりも富士山のように末広がりです。一億人増える年数はどんどん短縮されています。しかし、自分の前身者の数は逆ピラミッドです。アダムとイヴの時代にさかのぼればその数は想像を絶する数値になるはずです。 時代をさかのぼれば増えて行く自分の先祖の数と、同様にさかのぼれば少なくなっていく世界人口の数の矛盾があります。これをどうやって説明したらよいのか私の頭の中は混乱をきたしました。 一つの回答は片や前の天文学的数字は累計計算で、片や世界人口はある一点の時期の総計であるということで辻褄を合わせないと説明がつきません。。ということは、いかに大勢の人たちが地球上で生まれ、そして死んでいったかということになるのでしょう。お墓が地球上を埋め尽くさないのが不思議なほどです。 私たちが現在この世にいるということはその命を伝えた人たちが存在したからです。これほどの数の人が関わって現在の自分がいるのです。この先、人類がどれほど永く続くか分かりませんが私たちから生まれ出ていく人の数は子孫が絶えない限り増え続けるのです。これは、今を生きていることをおろそかにしてはいけないという事かも知れませんね。 |